フォトグラファー 郡 大二郎 × デザイナー 森 大樹 対談

フォトグラファー 郡 大二郎 × デザイナー 森 大樹 対談

クルマをよりカッコ良く見せるデザイナーと、クルマをよりカッコ良く撮るフォトグラファーの意外な共通点は? クルマをよりカッコ良く見せるデザイナーと、クルマをよりカッコ良く撮るフォトグラファーの意外な共通点は?

与えられた素材であるクルマを造形でより個性を際立たせる職業のデザイナー。そして、出来上がった車両に光と影を与えることでカッコ良さを際立たせるのが職業のフォトグラファー。このふたつの職業には必ず共通項があるはず。その謎を、新型プリウスモデリスタバージョンを目の前にして語り合ってもらった。

フォトグラファー
郡 大二郎
大阪芸術大学写真学科卒業後、㈱八重洲PRセンターを経て’90よりフリーランスとして 自動車、オートバイを被写体として専門誌、広告、カタログなどで活動中。
デザイン部 デザイングループ 主任
森 大樹
スタイリッシュかつ造形美のあるデザインを得意とする。これまでレクサスIS、RX、LXやランドクルーザー、プラド等のモデリスタパーツを担当。2015年新型プリウスのデザインを務めた。

仕事で触れるうちに愛着が湧いてくる 仕事で触れるうちに愛着が湧いてくる

それではまずはじめに、おふたりのことから。
それぞれ、現在の仕事に就くきっかけはどんなものだったんですか?

森:もともとクルマが好きで、カーデザイナーになりたかったんですよ。それでカーデザインの専門学校に通いました。でも最初はゲーム会社に就職して、レースゲーム車両のデザインや3Dモデリングを担当。その後にクルマ業界に移ってきたんです。

郡:じゃあ、いまは夢が叶ってるんですね。

森:子供のころは、医者になりたかったんですけどね(笑) 郡さんは?

郡:僕はスポーツカメラマンになりたくて、芸術学校に通ってました。で、寮が不便なところにあって、バスも少ないから撮影には原付で通ってたんです。そしたらだんだん、ワインディングを抜けてゆく道すがらが楽しくなってきて。バイクやクルマの仲間も増えてきて、それで出版社の写真プロダクションに入ってクルマを撮るようになったんです。


おふたりとも仕事でクルマに携わっているわけですが、仕事をやりやすい、あるいはやりづらい車種ってあるんですか?

郡:スタジオ撮影の場合はライティングをぜんぶ自分で作るんですけど、ラインに合わせて照明の位置決めをするときに「このラインはここで消えてるんだな」とか「こことここが繋がってるんだな」とか、そういうのがわかってくるとおもしろくて、だんだん愛着が湧いてきます。

森:ミニバンでもスポーツカーでも、担当してるうちにだんだん、そのクルマが好きになっていきます。86なんかはデザインを考えるうちに「自分でも買おうかな」なんて思ったり。

郡:やっぱり撮るときは、性格のわかりやすいのがいいですね。たとえばミニバンでスポーティなものって、実はちょっと撮りにくいんです。細かい部分ではスポーティだけれども全体は箱形、なんていうのは難しいですね。側面は平面的ですから、全体をスポーティに見せづらい。

森:エアロパーツを考えるときも、箱形ボディでコーナーが角張ってるとどうしてもやりにくい。たとえばフロントエンドから側面へといったような、コーナーをまたいだ造形というのが難しんですよ。線を折らなくちゃいけないので、どうしても表現が限られちゃうんです。どうもやりづらさを感じる部分は共通みたいですね。

郡:あとマイナーチェンジで、もともとのコンセプトから離れた顔つきになっちゃうのって、あるじゃないですか。

森:ああ、ときどきありますね。

郡:こういうのは側面のラインとフロントの造形が合わなくなって、顔がやたら重く見えたりすることがあるんです。だからかっこよく見せるアングルを決めるのがすごく難しくなっちゃう。これは国産車と輸入車を問わず、ときどきありますね。

森:でもボンネットとフェンダーは流用でグリルとヘッドライトだけ変えたりとか、メーカーも厳しい条件の中でよく考えてるなあとは思いますよ。

いちばん見せたい部分を強調する いちばん見せたい部分を強調する

それではそろそろ、今度のプリウスの話題にいきましょうか。新型をはじめて見たとき、どう思いました?

森:実を言うと「かっこいいのかな?」と、いまだに疑問に思う部分も、ちょっとあるんです。ルーフの頂点を前に寄せたプロポーションが、納得しきれてないんですよ。それから顔つきですかね。なんだか宇宙人みたいで……だんだん見慣れてきてはいるんですけど(笑)

郡:ヘッドライトの形、強烈ですよね。でもプロポーションは変わっても、全体のフォルムはいかにもプリウスという感じがします。クルマって街の景観の一部なんですよ。最初に写真を見たときは、これが街中で見かけるようになったら風景がどうなっちゃうんだろう、と。でも今日、白いボディカラーの車両を見たら落ち着いた感じもあって、スタイリッシュになったなあ、と。先代モデルと並べると、けっこう違った印象なんじゃないでしょうか。

森:プロポーションの違いで、撮り方も変わってくるんですか?

郡:アングルは同じでも、ライティングや光の方向を変えます。たとえば「スポーツカーだったらこういう光の当て方はしない」というのはありますよ。

森:そうすると、デザインするときには撮られ方も意識しなきゃいけないですね。いまでも「こういうライティングで撮ってほしい」という要望は出してるんです。「ここのラインがもっとくっきり出るように!」という感じですけど、もっと具体的なほうがいいのかな。

郡:それって、たとえばヘッドライトとバンパーの牙のように見えるメッキパーツが、実はその間のバンパーにある折れ線で繋がってるイメージだとか、そういうところ?

森:そうです、そうです。

郡:やっぱりそういうところは考えて撮らなきゃいけないですね。最近のクルマは造形が複雑なんで、あるところを強調しようとすると、別のところがわかりづらくなっちゃったりするんですよ。

森:「いちばん見せたい部分はここなんです!」というコミュニケーションを、もっとやらなきゃいけないですね。カメラマンによっては、撮ったもの見ると「えっ、そこを重視しちゃったの?」ということもあります。郡さんの写真じゃないですよ(笑)

「特別なクルマ」に見せたい 「特別なクルマ」に見せたい

綿密なやり取りをして「こういうふうに見せたい!」という気持ちを共有しなくちゃいけないということですね。

郡:カタログ写真とかの場合だと「こういうのがいいんじゃないかな?」と何種類か撮って、その中から選んでもらうということも多いですよ。

森:カメラマンさんによって個性が出ますよね。でもラインがはっきり見えるように照明位置を決めていくって、すごい。

郡:モデリスタの場合、もともとのベース車両の形を知ってないと撮れないと思うんです。もともとの形やラインがわかってないと、どういう意図でこの形にしたのかがわからない。プリウスだとトヨタマークの上の部分に、スーッとまっすぐ伸びる線のようなものが薄く見えるんです。なにもないツルっとした面にしか見えないと思ってたんですけど、ここに線が入ってるように撮れば、強そうな顔のイメージが作れますね。

ではアイコニック・スタイルについてデザイナー、
カメラマンそれぞれの視点で「ここに注目!」というポイントを教えていただけますか。

森:やっぱり、バンパー左右の折れ線がはっきり出るように撮ってほしいですね。シャープなラインで切れ味のよさを表現したいんです。

郡:その通りですね。ノーマルのプリウスは街にあふれるでしょうから、モデリスタバージョンはカタログからも「特別なもの」ということが感じ取れるように撮りたいですね。

森:リアでも左右のメッキパーツがコーナーを回り込むような形で付いているんで、側面からのダイナミックな動きも感じつつ、キレのよさも見せたい。

郡:たしかに動きのある造形ですね。ここ(バンパー左右端)は写真で見るとすごく折れ曲がっている印象なんですけど、実際はそうでもないんですね。

森:もともとベース車両がしっかりとした造形になっているんで、折れ曲がって見えるんだと思います。ただこのパーツには立体感を持たせて、飛び出ているような形にもしているんです。だから厚みのある塊がグッと押し出されてきているような、そういう雰囲気も伝わればいいなあと思います。

郡:なかなか難題だなあ(笑)

ベース車両の魅力を、カスタマイズでさらに引き立て、
それをアピールすることが重要ということですね。今日はありがとうございました。